コラム:ジャケットの下に半袖シャツはタブーか?
ジャケットの下に半袖シャツはタブーか?その理由と現実
最近はオーダーシャツ専門店やオーダースーツ店も、SNSを通じて情報を発信する時代になりました。中でもショート動画、いわゆる「リール」が主流となっています。しかしその中には、発信力がある一方で、やや一面的な、あるいは誤解を招く情報も見受けられます。
あるスーツ店の動画で、こんなフレーズを耳にしました。
「半袖シャツにジャケットを合わせるのは絶対にNG。ジャケットからシャツの袖が出るのがルールだから。」
一見もっともらしく聞こえますが、その"ルール"の背景や理由については触れられていません。ただ「絶対条件だ」とだけ断言されているのです。
なぜシャツの袖はジャケットの袖から出ているべきなのか?
本来、シャツはスーツやジャケットを汚れや汗から守るという役割があります。特に袖口部分は、汗や皮脂が付きやすい箇所です。
シャツは洗濯できますが、ジャケットやスーツはそう簡単には洗えません。だからこそ、ジャケットより少し長いシャツの袖が、いわば「ライナー」のような働きをしてくれるのです。
オーダーシャツならではの袖丈調整
金港堂では、オーダーシャツの際に左右の袖丈を個別に採寸しています。実際には、左右の腕の長さが違う方の方が多く、体にしっかり合った袖丈を実現するための大切な工程です。
一方でスーツやジャケットは、既製品で済ませてしまう方が多く、袖丈の調整までは行われないことも。結果として、「左右でシャツの出方が違う」という現象が起こりやすくなります。
半袖シャツが悪いというよりも、「自分の体に合った袖丈かどうか」の方が、むしろ大切なのではないでしょうか。
カジュアルジャケットなら半袖もあり?
確かに、仕立ての良いフォーマルなスーツに対しては、長袖シャツを合わせるのが基本です。しかし、ジャケットのすべてがそうとは限りません。
例えば、裏地のないコットン素材のカジュアルジャケット。こうした軽快なアイテムには、Tシャツや半袖シャツを合わせる方がむしろ自然な場合もあります。
季節やスタイルによって、半袖シャツをジャケットの下に着ること自体は"絶対NG"ではないのです。
情報発信に求められる「深さ」
ショート動画では、短い尺で視聴者の興味を引くことが求められます。そのため、どうしても断定的な表現になりがちです。
しかし、装いのマナーやスタイルには「こうでなければいけない」という一律の答えだけでなく、シーンや目的に応じた柔軟な判断が必要です。発信する側にも、もう少し丁寧な説明があってしかるべきだと感じます。
まとめ|ルールよりも「目的」と「装いのバランス」を
「ジャケットの下に半袖シャツはタブーか?」という問いには、確かにフォーマルな場では避けるべきといえるかもしれません。
しかし、装いの目的や場面によっては、むしろ快適さやスタイルの一部として半袖シャツを取り入れるのも自然な流れです。
それよりもジャケットを守るためには長袖であるべきだとも思います。
大切なのは、洋服の「役割」と「身体へのフィット感」、そしてシーンに応じたバランスを意識することではないでしょうか。